本研究はポリメタクリノ酸ブチル(PBMA)系の粉末と可塑剤熔液とから成る新しい粘膜調整剤を試作して、その歯科臨床特性をレオロジーの観点から解明したもので、以下の結論を得た。 1.ポリマーの合成 メタクリル酸n-ブチル(n-BMA)とメタクリル酸iso-ブチル(iso-BMA)とを用い、それぞれの単独重合体および共重合体を、ゼラチン水溶液中で懸濁重合法により合成した。粉末ポリマーの粒度は32〜55μmであった 2.可塑剤の流動性 4種類の可塑剤について、粘度(η)と温度(T)との関係を測定して、Inηと1/Tのプロットから流動の活性化エネルギーを求めた。本研究では、活性化エネルギーおよび生体安全性を考慮して、安息香酸ベンジル(BB)を可塑剤として選択した。 3.粉液混合物の流動性 粉末ポリマーと5mass%を含むBB可塑剤溶液との混合物について、見掛け粘度の経時変化を円錐-平板型粘度計で調べたところ、ゲル化の進行に伴って3〜4分後に粘度が急止昇した。その結果、iso-PBMA単独重合体およびn-BMA60mol%とiso-BMA40mol%共重合体(COP64)が実用的に有効であることがわかった。 4.粉液混合物の動的粘弾性 ゲル化後の粘膜調整剤の動的粘弾性を測定した。貯蔵弾性率G′と損失正接tanδの周波数および温度依存性のデータに、時間-温度換算則を適用することによってマスターカーブが得られた。試作材料と市販材料のレオロジー特性を比較して、PBMA系の粉末が粘膜調整剤としてきわめて有効であることが示唆された。
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