近年歯科臨床において、オッセオインテグレーテッドインプラントが広く普及し、欠損補綴における有効な選択肢の一つとなっている。しかし、インプラント上部構造に関する研究報告は少なく、特に、インプラント上部構造に与える機能的な咬合については、未だ明らかにされていない。そこで本研究の目的は、インプラント上部構造に与えるべき機能的な咬合の究明を目標に、第一ステップとして、インプラントの咬合感覚を検索することにある。今回、インプラント患者におけるゴム硬さ弁別能およびその時の咬合力を同時測定し、その特徴を検索した。 被験者は、顎口腔系に異常がない正常有歯顎者20名(男性10名、女性10名、24〜31歳)およびインプラント患者6名(男性1名、女性5名、15〜22歳)である。インプラント患者は、いずれも口唇・口蓋裂患者で、顎裂部への骨移植術と矯正治療を行い、顎裂部骨架橋にインプラント(Branemark)を単独植立した症例である。被験歯は、正常有歯顎者では両側中切歯、インプラント患者ではインプラント部および対側同名歯とした。硬さ弁別能測定装置として、ゴム硬度35度から75度までの10度間隔・5種類の天然ゴム板を利用し、さらに、弁別時の咬合力を同時に測定した。その結果、ゴム硬さ実験の正解率は、被験者間および左右側間において有意な差が認められなかった。一方、ゴム硬さ弁別時の咬合力は、インプラント患者においてその値が有意に高く、大きなばらつきを示した。以上の結果より、インプラント患者においても、正常有歯顎者と同等の硬さ分別能を有することが示された。これは、インプラント対合歯における歯根膜感覚の補償効果によるものと推察される。また、同等の硬さ分別能を発揮するために、咬合力が重要に関与することが示唆された。
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