近年歯科臨床において、Osseointegrated Implantが広く普及し、欠損補綴における有効な選択肢の一つとなっている。しかし、Implant 補綴物に関する研究報告は少なく、特に、Implant 補綴に与える機能的な咬合については、未だ明らかにされていない。そこで本研究の目的は、Implant 補綴に与えるべき機能的な咬合の究明を目標に、第一ステップとして、Implant の咬合感覚を検索することにある。今回、Implant 患者におけるゴム硬さ弁別能およびその時の咬合力と咀嚼筋筋電図を同時測定し、その特徴を検索した。 被験者は、顎口腔系に異常がない正常有歯顎者20名(男性10名、女性10名、24〜31歳)およびImplant患者17名(男性8名、女性9名、17〜35歳)である。Implant患者は、いずれも口唇・口蓋裂患者で、顎裂部への骨移植術と矯正治療を行い、顎裂部骨架橋にImplant(Branemark)を単独植立した症例である。被験歯は、正常有歯顎者では両側中切歯、Implant患者ではImplant部および対側同名歯とした。硬さ弁別能測定装置として、ゴム硬度35度から75度までの10度間隔・5種類の天然ゴム板を利用し、さらに、弁別時の咬合力と咬筋筋電図を同時に測定した。その結果、ゴム硬さ実験の正解率は、被験者間および左右側間において有意な差が認められなかった。一方、ゴム硬さ弁別時の咬合力は、Implant患者においてその値が有意に高く、大きなばらつきを示した。以上の結果より、Implant患者においても、正常有歯顎者と同等の硬さ分別能を有することが示された。これは、Implant対合歯における歯根膜感覚の補償効果によるものと推察される。また、同等の硬さ分別能を発揮するために、咬合力が重要に関与することが示唆された。
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