研究概要 |
義歯床下骨組織の動態に関して糖尿病が及ぼす影響に関する検討は,十分に行われているとは言い難い.本研究は,糖尿病誘発ラットを対象として,義歯床を介して咀嚼圧を加えることによって惹起される義歯床下骨組織の吸収動態に対して糖尿病が及ぼす影響について,未脱灰研磨標本を対象として組織計測的に検討することを目的とした. 実験動物には,ストレプトゾトシンによって糖尿病を誘発したウイスター系雄性ラット250匹[義歯装着群4群(義歯装着被覆群1群,義歯装着加圧群3群)ならびに義歯非装着群1群,各群50匹]を用いた.義歯装着被覆群には,義歯床下組織を無圧の状態で被覆する義歯床を,義歯装着加圧群には,それぞれ1.0,10.0または20.0kPaの咀嚼圧を義歯床下組織に対して加える義歯床を,臼歯部口蓋に対して装着した.義歯非装着群は無処置のまま経過させた.全実験動物に対して義歯床装着12週前,義歯床装着時(22週齢時)および義歯床装着4日後以降1週間ごとに,骨組織の蛍光ラベリングを施した.観察期間は義歯床装着の1週後から10週後まで毎週とし,観察期間毎に各群の5匹ずつから口蓋組織を採取した.採取した口蓋組織は,Villanuevaの骨染色の後,厚さ約50μmの前頭断未脱灰研磨標本とした.組織計測専用の画像解析システムを用いて,分画吸収面率ならびに活性吸収面率を求めた.また,骨吸収量は,予め施した骨組織の蛍光ラベリングに基づいて,義歯装着被覆群において義歯床装着12週前から義歯床装着時までに形成された形成骨量と,骨吸収の認められた実験群における上記形成骨量の各観察期間における残量との差として求めた. その結果,骨吸収の惹起された10.0および20.0kPa加圧群における骨吸収は,ともに6週後まで認められ,骨吸収の総量は189±38μmおよび266±27μmであった.本研究において得られた結果と,本研究と同一条件下において正常ラットが示したこれらの値とを比較した結果,糖尿病は骨吸収の発現期間を延長し,骨吸収量を増加させることが示唆された.
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