研究概要 |
この研究の目的である歯科用金属アレルギー患者の唾液緩衝能を観察する前に,予備的な実験として,金属アレルギーを発症させる歯科用金属の変化を口腔内シュミレートした浸漬試験を用いて調べた. 歯科用金属として選択したのは,生体親和性の高いと言われている純チタンである.浸漬液としては,口腔内の唾液やプラーク中には有機酸(乳酸,ぎ酸,酢酸)が含まれ,さらに,口腔内環境は,個人および食物摂取によりかなりのpH変化が起こるため,影響を受けるとされていることから,今回は,乳酸1%に相当するそれぞれ1.28mMの乳酸および酸溶液を準備し,これらの溶液をpH1.0,2.5,4.0,5.5,7.0,8.5に調整し,実験に供した.37℃,80回/minの振盪を加え,3週間後に溶出量,重量変化,色差測定および表面形状・性状の変化を観察した. 得られた結果は,溶出量,重量変化で乳酸,ぎ酸のどちらの溶液においてもpHの影響は明らかで,特にぎ酸溶液において影響が明らかであった.pHが低い環境では,溶出量が増加し,重量も減少傾向が大きかった.色差測定では,乳酸溶液ではほとんど影響は見られなかったが,ぎ酸溶液では影響は明らかで,pH2.5と4.0において変色が大きいことがわかった.一方,表面形状の変化では,どちらの溶液においてもpHによる大きな変化は観察されなかった.表面形状においては,ぎ酸溶液においてのみ差異が明らかで,酸化チタンの層が厚くなっていたのが確認された. 以上の結果から,口腔内における唾液の性状や緩衝能および食生活により口腔内の金属はかなり影響を受けることが予測できた.しかし,今年度に得られた結果は,口腔内のほんの一部をシュミレートしただけであるので更なる検討が必要なため,他の金属や浸漬液を変える追加実験を計画すると共にデータは分析中である. 一方で,これと同時に,金属アレルギー患者の口腔内の緩衝能をサリバテストやpH試験紙を用いて,健常者との差がないかどうかを調査している.
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