研究概要 |
微小電気刺激による骨再生誘導法の実用化を目的として,生体吸収性で圧電性を有するポリL-乳酸フィルム(PLLAフィルム)を用い,微小電気刺激が骨欠損周囲の骨再生に及ぼす影響を病理組織学的に観察した.実験はラットの大腿骨皮質骨を用い,直径2mmの骨窩洞を作成した後,PLLAフィルムで被覆して囲繞結紮を行い,タイムテーブルに従い二重骨標識を行った.術後2週例,4週例の未脱灰研磨標本を作製し,PLLAフィルムによる微小電気刺激が骨再生に及ぼす影響とその範囲を検索した. その結果,各実験期間においてGTAM群,非圧電性PLA群では骨欠損部内の新生骨形成は少なくすう粗な様相を呈するのに対して,PLLA群では早期より骨形成が著明で,個々の骨梁は太く,互いに癒合し成長が進んでいた.新生骨の形成部位は,対照群では主に骨断端部や膜直下であり骨窩洞中央はすう粗であるのに対し,PLLA群では窩洞内の広範囲に新生骨を認めた.特に分子量30万のPLLAフィルムを用いた群では,新生骨が窩洞全体に密に形成され,さらに大腿骨の既存骨周囲全体にも骨添加を認め,皮質骨の輻は術前の約2倍になっていた.新生骨の形成時期,石灰化速度については,PLLA群では骨形成が術直後より活発で長期間持続し,骨の形成速度も早く,術後4週例では層板構造を呈する部位を広範囲に認めた. したがってPLLAフィルムによる微小電気刺激は骨欠損部においてフィルム周囲や骨窩洞窩縁部の骨再生を量的,質的,速度的に促進するのみならず,既存骨周囲においても骨増生を促進することが示された.このことから,微小電気刺激はメカニカルストレスとして骨形成の重要な因子となり,骨損傷部および既存骨に広範囲に存在するメカノレセプターに影響を及ぼし,骨形成を促進することが推測された.次年度は,免疫学的手法ならびに生化学的手法を用いて細胞レベルで微小電気刺激の影響を検索する予定である.
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