現在、歯科インプラント材の主流をなしているチタンおよびその合金は、加齢に伴う骨粗鬆症の不十分な骨量に対応できる骨形成能を有するとは言い難く、機能性タンパクの応用やリン酸カルシウム・セラミックス(Ca-P)が試みられ一部は臨床応用されている。前者は骨誘導能を有し将来的に有望ではあるが、担体の問題や免疫の問題が未解決であり実用化するまでに至っていない。また骨芽細胞が多く存在する部位では必ずしも骨誘導は必要でなく、骨伝導性を有する表面で十分とも考えられる。Ca-Pは骨伝導能を有することから、現在、主にプラズマ溶射によりコーティングしたインプラント材が臨床に供されている。しかし、この方法は膜厚が比較的厚い、膜組成が不均一である、膜内部が粗造である、コーティング膜とチタンの界面で剥離しやすい、などの理由で長期的にはTiインプラントより劣っているとの報告が多い。そこで、予め強固なリン酸カルシウム薄膜(数μm以下)をコーティングする方法を試みた。これらのCa-P膜は、コーティング膜の脱落によるマクロファージの貪食の不快事項を回避する、骨のリモデリングを考慮している、などの望ましい性質を有していると考えられる。本コーティングインプラントをビーグル犬に埋入してほねの初期接触率を調査した結果、Tiインプラントより有意に上昇していることが明らかとなった。さらに、骨粗鬆症の治療薬であるBisphosphonateをTiインプラントへの固定化を試みた。その結果、Caと特異的に親和性のあるBisphosphonateは、Caイオン注入チタン、Ca-P薄膜コーティングチタンへ固定できることが明らかとなった。また、その局所効果を期待して、骨芽細胞によるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を調査した結果、Ca-P薄膜をチタンにコーティングすると初期骨形成能が改善され、この薄膜にBisphosphonateが固定され、ALP活性が上昇することが明らかになった。同時にBisphosphonateを固定した表面は、歯周病原菌の付着を抑制することがあきらかとなった。 以上の結果から、リン酸カルシウム薄膜コーティング、およびそれにBisphosphonateを固定したインプラントは、インプラント周囲の骨形成に対して有効な微少環境を提供する可能性のあることが示唆された。
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