現在各種の下顎運動測定器が使用されるが、その大部分は磁気を応用している。そこで、磁性アタッチメント使用時に顎運動が正確に記録できるかどうかを分析した。下顎運動測定器にはSirognathographを用いた。磁性アタッチメントは成人有歯顎者の下顎両側犬歯部に固定した。その結果、下顎運動の側方変異量の測定結果を多少変化させるが、通常よく用いる垂直変異量には変化がなかった。 磁性アタッチメントの利用で、口腔内の血流に変化が現れるかどうかを検討した。血流計のプローブを粘膜組織に接触させると、その際の圧により血流に変化が生じるので、非接触型の血流計を用いて測定した場合のプローブと粘膜間距離、当てる角度などについてまず検討した。その結果、距離が離れると測定値は減少すること、角度について血流値はほとんど変化しないことが明らかになった。 実際に口腔内に磁性アタッチメントを用いた場合を想定して、成人の上顎第一大臼歯部口蓋粘膜に磁性アタッチメントを設置した。なお、結果を明瞭にするためにキーパーは用いなかった。その結果、設置直後は血流量が一時的に減少するが、3分後にはやや増加した。磁性を帯びないダミーを設置すると、一次的に血流は減少し、3分後には元に戻った。実際に下顎犬歯部に磁性アタッチメント用いたオーバーデンチャー装着患者の犬歯近傍粘膜部で血流を測定したが、キーパーがついていて磁場の漏洩がほとんどないためか血流に変化は認められなかった。 なお、歯肉上皮細胞の増殖に及ぼす影響、炎症性サイトカインであるIL-8産生についても測定を行ったが、磁性アタッチメントが歯肉組織に対して炎症を惹起することはなく安全であることが明らかになった。
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