咀嚼運動は、機能的で生理的なものであると共に、獲得性、無意識および習慣性のものであるとされており、これまでの測定器では測定条件を十分満たすことが困難であった。 そこで、咀嚼運動がもつ機能的で生理的な運動の特性を追究するには、まず測定器によるヒトへの生理的な影響を十分考慮した高性能な測定器が必要であった。 本研究では、ヒトへの生理的な影響が極めて少なく、6自由度で100μm以下の測定性能を有する顎運動測定器を開発すると共に、咀嚼運動のもつ機能的で生理的な運動の特性が追究可能な計測システムの開発を行った。 開発した6自由度顎運動計測システムは、顎運動検出機構部、データ処理部およびノート型パソコンより構成した。開発にあたっては、まず設計に必要な資料収集を行い、これらの資料を基にして基本設計を行った後に、模型実験から問題点を探り、試作器を製作した。 具体的には、検出機構部の設計を中心に行い、上下顎の歯列に装着するメカニカルな機構を採用して、「軽量化」と「動きの滑らかさ」を追究した。また、ヒトへの生理的な影響を十分考慮した装着方法の研究も行い、小児の被験者を対象にガム咀嚼の運動を測定した。 本研究の目標はほぼ達成でき、工学の立場より顎口腔機能の研究に取り組んだこれまでの業績に対して、日本顎口腔機能学会から学会賞をいただくことができ、学術大会で記念学術発表の機会が得られ、本研究での成果の一部も報告することができた。 今後の研究では、検出機構部をヒトに装着した後に、食卓で顎運動が計測できる状態にまで仕上げ、歯科医師が知りたい顎機能診断情報をリアルタイムでモニタ上に提供できるシステムの開発を考えている。そのためには機構部の動的な評価方法など、解決しなければならない基本的な問題が、まだまだ多く残されており、今後も引き続き努力する所存である。
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