研究概要 |
口腔扁平上皮癌(SCC)の遠隔転移の予測診断法を確立するために,遠隔転移の有無とそれと関連する様々な因子について検討した.その結果,遠隔転移を示すSCCにおいては,E-カドヘリン(E-cad)とα-カテニン(α-cat)の発現が減弱しており,複数個あるいは健側の所属リンパ節に転移を示し,かつシスプラチンを主体とした癌化学療法に抵抗性であることが示唆された.一方,これまでの我々の検討により,SCCにおけるヘパラン硫酸グリコサミノグりカン(HS-GAG)の発現が強度である場合に,所属リンパ節転移の頻度が高いことが明らかになっているが,さらに,HS-GAGの発現が強度である場合,シスプラチン,アントラサイクリン系抗癌剤およびペプロマイシンを用いた化学療法に抵抗性であることが明らかとなった.癌化学療法に対するSCCの抵抗性が,遠隔転移と関連することを考慮すると,HS-GAGの強度発現症例に有効な癌化学療法が見い出せれば,遠隔転移の頻度を低下させることができる可能性が示唆された.また,SCCの治療過程における生物学的性状の変化に注目してみると,SCCの遠隔転移に関連すると思われるE-cadおよびα-catのSCCのおける発現が,癌化学療法の影響により,免疫組織化学的に増大する一方で,HS-GAGのSCCにおける発現は減弱することが明らかとなった、このことは,癌化学療法の病理組織学効果判定が,無効とされた症例においても,SCCの生物学的性状が変化し,転移し難い方向に変化している可能性が示唆された.従って,術前化学療法の効果判定をE-cad,α-cat,HS-GAG等のマーカーを用いて,生物学的性状の変化という観点から試みることは,SCCの遠隔転移を予測する上で有効な方法であると思われた.
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