本研究では、顎関節疾患とくに顎関節内障におけるメカニカルストレスの病態形成における役割を生化学的に解析することを目的に、顎関節内障の顎関節滑液中の各種炎症性サイトカイン濃度、NO濃度を測定し、ブラキシズムなどのメカニカルストレスが炎症性サイトカイン活性や滑液中のNO濃度を上昇させるか否かを検討することとした。ブラキシズム患者からの滑液採取が極めて困難でブラキシズムの有無による滑液中の炎症性サイトカインとNO濃度の比較検討という当初の目的は残念ながら到達できなかった。本研究では顎関節症患者および健常人からパンピングにより滑液を採取し、滑液中のタンパクレベル、NO濃度を測定した特に顎関節痛、さらにMRIのT2強調画像で高信号として認められるJoint effusion像との関係を比較し、joint effusionは、顎関節痛と、滑液中のタンパク濃度との間に密接な関係があることを明らかにした。次に炎症性サイトカインなどの存在下にNOを合成する誘導型一酸化窒素合成酵素を顎関節疾患患者の滑膜組織において同定し、NOが顎関節において合成されることを明らかにした。さらに関節の潤滑を担うヒアルロン酸の分子量を測定し、これらの分子量が顎関節内障の患者群で低下していることを示した。関節におけるヒアルロン酸低下はラジカルによる分解が関与しているとされ、メカニカルストレスなどの結果産生されるNOなどのラジカルなどによるものである可能性が示唆された。これらの結果は顎関節疾患の病態形成にメカニカルストレスが関与することを明らかにし、顎関節内障の病態形成の解明に寄与したと自負している。
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