最初に心拍変動の周波数解析に適した基本ウェーブレット関数について検討し、周波数局在性と解析対象とする波形との相似性という点から、biorthogonal spline waveletsとMexican hatが比較的望ましいという結果を得た。つぎに硫酸アトロピンにより薬理学的に副交感神経抑制を発生させ、心拍変動の呼吸周波数成分を急激に減少させた信号を用いて解析を行った結果、実際の心拍変動波形の解析として、前記基本ウェーブレット関数が比較的適していると思われた。また、ケースによって連続あるいは離散ウェーブレット変換を使い分けたほうが望ましいことが示された。 上記解析法の臨床応用前に解析対象とする母集団の特性を検討する目的で高齢歯科患者の循環系に関連した疫学的調査を行った。すなわち、高齢歯科患者の循環器系疾患を中心とした全身疾患の有病率調査(結果2)、および、既往疾患から推定できなかった心電図異常の発現頻度(結果3)について検討した。つぎに、これらの調査、および、前年度の基礎的検討の結果を基にして、ウェーブレット変換を用いた心拍変動解析に関する大規模データの蓄積と臨床的応用に関する検討を目的の一つとした高齢者歯科患者生体情報監視システムの構築を行った(結果4)。 本システムは現時点ではフル稼働状態に至ってないので、本年度までに十分量のデータを蓄積することができなかった。従ってさらなる検討が必要であるが、短時間変動の検出において有力なツールであるウェーブレット変換による心拍変動解析は、時間分解能において短時間フーリエ変換の弱点を補う方法として高齢者の非侵襲的な循環モニターとして有用であると思われる。
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