マラッセの上皮遺残が歯原性腫瘍の発生源になり得るかどうか、また歯原性腫瘍の動物実験モデルを開発するために、以下の研究を行った. M-methylnirtosourea(MNU)および歯科用アルジネイト印象剤を混和したものを生後5週齢のウイスター系ラット左側下顎骨頬側面上に0.3ml(投与量MNU=30mg、約300mg/kg)注入した.この混和物は数ヶ月局所にとどまっており、アルジネイトはMNUを緩徐に局所に作用させるための良いキャリアになることが判明した. 処置後1・3・5・8か月後にラットを屠殺し、固定、脱灰、パラフィン固定し、光顕的、電顕的に観察した.その結果、5ヶ月後および8ヶ月後にはすべての実験ラットにて、マラッセの上皮遺残は左側下顎第一、第二、第三臼歯の歯頚部および根分岐部で著明に増大したものがみられ、また、その部分の歯槽骨は多核巨細胞による骨吸収を認めた.これら増殖したマラッセの上皮遺残による上皮塊にはエナメル器様構造、不定形の好酸性物質、管腔様構造および扁平上皮仮生など様々な変化が認められた.これら臼歯部での増殖性変化に加えて、切歯部では歯原性腫瘍の発生が、頬部・膝部・膀胱・皮膚では癌や肉腫の発生が見られた. これらの所見から、今回用いたようなMNUと歯科用アルジネイトの混和物の局所投与は、高率にマラッセの上皮遺残由来の歯原性腫瘍を発生させることが可能であり、優れた歯原性腫瘍の動物モデルとして利用することができ、また、歯原性腫瘍の発生母地のひとつとしてマラッセの上皮遺残を考えてよいことが示唆された.
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