研究概要 |
今年度はモルヒネ耐性形成時における神経細胞カルシウムチャネルの機能的変化に関する実験をさらに展開した。まずN型カルシウムチャネルブロッカーであるω-conotoxinGVIAの脳室内投与によって生じる鎮痛作用のモルヒネ,クロニジン耐性時における変化を検討した。またマウス大脳皮質シナプス分画において脱分極刺激による45Ca取り込みのω-conotoxinGVIAによって抑制される割合がモルヒネ耐性時に減少する現象について,P,Q型カルシウムチャネルブロッカーとの比較を行って,耐性形成に関与するチャネルがN型以外に存在する可能性を検討した。さらに一酸化窒素(NO)がモルヒネ耐性に及ぼす影響を調べる準備段階として,モルヒネとNOの相互作用についてヒト神経芽細胞腫細胞SH-SY5Y系を用いて実験を行った。 主要な成果として、(1)マウスにおけるω-conotoxinGVIAによる中枢性鎮痛作用はモルヒネ耐性群,クロニジン耐性群共に有意に減弱することを示した。(2)P,Q型カルシウムチャネルブロッカーによっても45Ca取り込みは抑制されるが,N型同様,モルヒネ,クロニジン耐性時に取り込み量の抑制割合が有意に減少することを示した。(3)外因性活性酸素発生剤によりSH-SY5Yのアポトーシスが誘導されるが,モルヒネはONOO-による細胞死に対して特異的に抑制することを明らかにした。他のオピオイド受容体選択的作動薬はモルヒネのような作用は示さず,ナロキソンが拮抗しないためモルヒネとONOO-の相互作用はオピオイド受容体を介さないことを示した。すなわち我々が過去に報告した,モルヒネ耐性時にN型カルシウムチャネル数が増加している現象が機能的な面からさらに裏付けられ,クロニジンとの比較からオピオイド受容体レベルの変化とは別に,モルヒネ耐性はカルシウムチャネルの変化として説明できることが証明された。またN型チャネルは特に重要であるが,P,Q型チャネルも関与している可能性があることが示唆された。
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