研究概要 |
昨年度に引き続き、口腔癌の遺伝子診断、特に従来の方法では診断が困難な潜在癌あるいは腫瘍の生物学的な特徴に対する診断法の確立を目的に実験を行った。 1,口腔扁平上皮癌患者の血清中のHGFレベルを治療前と治療後で検索した。癌患者の血清中HGFレベルは健常人と比較して、有意に高値を示すことが明かとなった。癌患者においては一次治療で腫瘍が存在しなくなった時点で再度血清HGFレベルを測定すると、全ての症例で低下しており健常人のレベルと同程度になっていた。 2,口腔扁平上皮癌患者の生検組織における、癌抗原SCCとCEAの遺伝子発現の検索を行った。その結果ほとんどの症例でSCC遺伝子の発現は認められるがCEAの発現は全く認められなかった。現在、腫瘍マーカーとして患者血清中のSCC蛋白質、CEA蛋白質の検索を行っているが、CEAは口腔扁平上皮癌のマーカーにはなりえないことが明らかになった。また原発腫瘍で発現するSCCの程度を参考にすることにより、血清中SCC値のより詳細な評価が可能となった。 3,口腔扁平上皮癌患者の生検組織における、抗癌剤5-FUの標的酵素であるTSとその代謝律速酵素であるDPD遺伝子発現の検索を行った。その結果、腫瘍のほとんどはTSを発現しており、5-FUが有効で有ることがわかり、DPD遺伝子は腫瘍によりその発現量が著しく異なっており、5-FUに対する感受性が違うことが推察された。実際に臨床的な5-FUの効果とDPD発現には関連が認められたが、TSの発現量とは明らかな相関は認められなかった。このように、TS,DPD遺伝子の発現を治療前に検索することにより腫瘍の5-FU感受性が診断できる。
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