本研究においては口腔癌の遺伝子診断、特に従来の方法では診断が困難な潜在癌あるいは腫瘍の生物学的な特徴に対する診断法の確立を目的に実験を行った。まず、口腔扁平上皮癌患者より末梢血を採取し、癌細胞にのみ発現していると考えられるサイトケラチン20(CK20)mRNAの検出を行ったところ、ほとんど総ての患者よりCK20が検出され、原発巣、転移巣を問わず癌病変が存在している事と末梢血CK20mRNAの発現が相関する事が明らかとなった。しかしながら、末梢血中CK20mRNAと癌細胞の転移能との相関は認められなかった。次に口腔癌のリンパ節転移能を評価する目的で、癌組織に存在する細胞外基質分解酵素の活性と細胞運動能促進因子であるHGFの産生を検索した。その結果、癌細胞における活性型ゲラチネースA、癌間質におけるHGF産生が口腔癌のリンパ節転移に相関することが明らかとなった。また癌患者の血清中HGFレベルは健常人と比較して、有意に高値を示すことが明かとなった。口腔扁平上皮癌愚者の生検組織における、癌抗原SCCとCEAの遺伝子発現の検索を行った。ほとんどの症例でSCC遺伝子の発現は認められるがCEAの発現は全く認められなかった。すなわち原発腫瘍で発現するSCCの程度を参考にすることにより血清中SCC値のより詳細な評価が可能であり、一方CEAは口腔扁平上皮癌のマーカーにはなりえないことが明らかになった。口腔扁平上皮癌患者の生検組織における、抗癌剤5-FUの標的酵素であるTSとその代謝律速酵素であるDPD遺伝子発現の検索を行った。腫瘍のほとんどはTSを発現しており、DPD遺伝子は腫瘍によりその発現量が著しく異なっていた。すなわち、DPD遺伝子発現を検索することにより5-FUに対する感受性を診断し得る事が示唆された。
|