筋・筋膜痛患者の咀嚼筋筋活動時運動単位は、正常者と比較して運動単位活動電位の大きさのパラメーターおよびその発火パターンが異なるか否かを下記の(1)-(4)の4実験で検討し、筋・筋膜痛が局所的な、ミオパチーか否かの可能性を考察した。申請者らはまず(1)通常の表面電極を用いて咀嚼筋筋活動の各種等尺性収縮レベルにおけるターン/振幅分析を行った。この結果、運動単位活動電位の発火頻度と動員される運動単位活動電位の大きさを示すパラメーターとして、ターン回数および1ターンあたりの平均振幅が有効であり、すべての収縮力で本法は運動単位の動態を類推することが可能であり、収縮レベルを変数とする関数に、発火頻度が三次関数および動員される運動単位活動電位の大きさが一次関数に関数変換可能であることを示した。しかし本法は個々の運動単位を直接測定したものではないため、次に(2)強収縮時の運動単位を針電極を用いて干渉波より個々の運動単位を自動解析し、直接個々の運動単位を計測するプログラム(Auto Decomposition EMG)を用いて正常者の各種等尺性収縮レベルの運動単位活動電位を検討した。その結果、同プログラムでは、持続時間測定には問題が残るものの、その他のパラメーターに関しては有用であり、50%最大収縮未満の収縮力の評価法として有用であることを示した。次に(3)正常者と筋・筋膜痛患者の30%最大筋収縮力の運動単位を検討した。この結果、明らかなミオパチーを示す所見は認められなかったものの、発火頻度のばらつきが大きく、筋・筋膜痛はその主病変が末梢ではなく、中枢性の原因である可能性を示した。最後に(4)筋・筋膜痛の病因が中枢性であることを確認するため、正常者と筋・筋膜痛患者両者に虚血疼痛試験を実施し前後の筋疼痛閾値を測定した。以上の結果より、筋・筋膜痛の病態がミオパチーが主因ではなく、むしろ下行性疼痛抑制系の機能不全であるとを結論した。
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