平成10年度はラットの顔面領域に分布している眼窩下神経と口腔内に分布している舌神経の感覚神経の三叉神経感覚核への投射様式について調べた。両方の神経の有髄神経は主知覚核、吻側核、中位核と尾側核のIとIII〜V層に投射した。この結果に基づいて、眼窩下神経切断による有髄神経の中枢投射様式の変化について検討した。正常ラットでは尾側核のII層に有髄神経は投射しないにもかかわらず、神経切断後1週間でこの核のII層に新たな有髄神経の投射が認められた。このことは、末梢神経切断により中枢神経に可塑的変化が生じる事を示唆している。 そこで、平成11年度・12年度は神経切断による中枢神経の可塑的変化の機構を明らかにするため、神経切断による転写調節因子(c-FosとZif/268)の発現機構について検討した。眼窩下神経切断によりこの因子が三叉神経尾側核に発現するが、神経露出による発現部位と重複し、両者によるこの因子発現を区別することは難しい。しかし、坐骨神経を切断すると腰髄(L4-5)の後角I/II層の内外側全体にこの因子は発現するが、坐骨神経の露出だけではこの因子の発現は後角の外側1/3に限局した。神経切断により外側1/3に発現する陽性細胞数と神経露出による細胞数はほぼ同じであった。このことは、神経切断により外側1/3に発現するこの因子は神経露出に由来し、神経切断後の後角の内側2/3に発現する陽性反応は神経切断に由来することを示している。この事実に基づいて、神経切断によるこの因子の発現とグルタメイト受容体の関係について検討した。グルタメイト受容体のアンタゴニスト前処理により、神経切断による外側1/3の発現は減少したが、内側2/3の発現には変化がなかった。このことは、組織損傷と神経切断による転写調節因子発現に対するグルタメイト受容体の関与に違いがあることを示している。
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