研究概要 |
平成10、11年度に亘り、HE染色で確定診断の得られた治療前の口腔癌(CA)6例、口腔粘線上皮異形成(Dys)9例について以下の項目で遺伝子検索を行った.検査項目および方法:1)K-ras codon 12点突然変異(MASA法)、2)Replication error(RER)とLoss of heterozygosity(LOH):2p,3p,17p,18q(PCR法)、3)p53点突然変異:exon 5,exon6,exon7,exon8(PCR-SSCP法)。結果:1)遺伝子異常の頻度はCA症例では6例中5例(83.3%)、Dys症例で9例中5例(55.6%)であった。また、遺伝子異常を示した全症例に17pの異常が検出された。2)Kras codon 12点突然変異は、CA1例(16.7%)、Dys0例であった。3)RER/LOHについては、CA症例では3pLOH2例(33.3%)、17pLOH2例(33.3%)、18qLOH1例(16.7%)であった。Dys症例では2pLOH1例(11.1%)、17pLOH2例(22.2%)で、その内1例は17pRERが重複していた。4)p53点突然変異は、CA症例では6例中4例(66.7%)に認められexon5,7に各1例(16.7%)exon 8に2例(33.3%)認められた。Dys症例では9例中4例(44.4%)に異常が認められ、その内訳は、exon5に2例(22.2%)、exon8に2例(22.2%)であった。5)Dys症例において、喫煙、飲酒の習慣の無い3例中1例(33.3%)、習慣のある6例中4例(66.7%)に遺伝子異常が認められた。考察:1)遺伝子異常がCA症例で83.3%、Dys症例で55.6%に認められ、遺伝子異常を示した全症例に17pの何らかの異常が検出されたことより、口腔前癌病変から口腔癌発症の過程で17pの異常が重要であると思われた。特にp53の点突然変異はCA症例66.7%、Dys症例で44.4%に認められ、exon5とexon8に集中する傾向より、前癌病変の段階でp53の点突然変異が発生し、その後17pのLOHが起こる可能性が考えられた。2)2p、3pのLOHが両群から認められることより、新たな癌抑制遺伝子の存在またはミスマッチ修復の異常が示唆され、癌化の要因となると思われた。
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