研究概要 |
口腔前癌病変(以下OPL)は、その約4〜5%前後が口腔癌(以下OCA)に移行すると言われている。今回、われわれは、OPLの癌化メカニズムおよび潜在的悪性化能を解析することを目的に遺伝子解析およびOPL群の喫煙・飲酒の習慣の聞き取り調査を行った。 <結果および考察>(1)K-ras codon12点突然変異は、OCA群20%、OPL群14.3%に異常が認められ、物理的、化学的刺激、ウィルス感染などによりras遺伝子の点突然変異が前癌病変の段階より生じるのではないかと思われた。(2)2p,3p,17p,18qのゲノム不安定性については、OCA群は80%に、OPL群は28.6%に異常が認められた。異常の内訳はOCA群では3p LOH 30%、17p LOH 40%でOPL群は3p LOH7.1%、17p LOH21.5%であり、OPLから癌化への過程で3pLOHによるミスマッチ修復異常によるゲノム不安定性の存在、17pLOHによる細胞周期の調節異常や異常細胞のアポトーシスなどの制御不能などが関与し、OPLの潜在的悪性化能を評価する一つの指標になるものと思われた。(3)p53点突然変異はOCA群では50%、OPL群28.6%認められたことにより、癌化の過程ではp53の点突然変異が強く関与する事が示唆された。なお、両群ともexon5,8に点突然変異が多い傾向であった。(4)OCAの分化度と今回の検索した遺伝子の異常については、総じて、関連は低いものと思われた。OPLの異型性の程度と遺伝子異常については比較的早期にp53の点突然変異が起こり、3p、17pのLOHより早期に起こりうることが示唆された。(5)OPL群50%に喫煙・飲酒の習慣が認められた。習慣の有る症例の54.1%および喫煙・飲酒の習慣の無い症例の42.9%に何らかの遺伝子異常が検出された。今後も症例数を増やして検討する必要があると思われた。
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