研究概要 |
我々は口腔粘膜上皮のアポトーシスにおけるFas抗原の役割を解明するために、口腔粘膜におけるFas抗原の発現を調べた。Fas抗原はヒト口腔粘膜上皮の有棘細胞層から顆粒層にかけて強く発現する。その分子量は35kDaであり、Fas遺伝子より類推される分子量と完全に一致する。この結果はヒト口腔粘膜においてはFas抗原は糖鎖がついていない形で存在することを意味し、非常に興味深い。また我々はFas抗原は口腔関連各種疾患において特異的に発現し、口腔扁平上皮癌においては腫瘍組織の分化度によって著しく異なることを明らかにした(Muraki et al,1999)。さらに我々はFas抗原の発現は化学療法に対する病理的奏功率ならびに患者の予後を左右する因子のひとつである可能性を示した(Muraki et al,in press)。口腔扁平上皮癌細胞のアポトーシスをより単純な系で調べるために我々は培養口腔扁平上皮癌細胞(SCC-25,SCCKN,SCCTF)を用いた。その過程で蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤であるオカダ酸とカリクリンAはこれらのSCC細胞にアポトーシスを誘導することを見いだした(Fujita et al,in press)。さらに各種制癌剤がこれらの細胞にアポトーシスを誘導し、その作用機構が異なること、抗癌剤による癌細胞の薬剤耐性の一部はアポトーシス誘導能と関係すること等を明らかにしてきた(Morimoto et al,submitted)。また、SCC-25細胞はFas抗原のmRNAと蛋白を発現し、その発現はanti-Fas monoclonal抗体(mAb)により促進される。このmAbによるSCC-25細胞のアポトーシスはFas抗原を介している(Seta et al,submitted)。現在制癌剤及び放射線による口腔癌細胞の増殖阻害とアポトーシスの関係について検討中である。
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