本研究では、小児歯科領域で広く用いられている小窩裂溝填塞材(シーラント)中に、不純物として含まれている可能性がある、環境ホルモンの一つであるビスフェノールAの測定を行った。 1年目においては、女性ホルモンであるエストロジェンのレセプター遺伝子を遺伝子工学的手法を用いて導入した酵母菌を用いて、エストロジェンやその類似物質の定量を試みた。この実験系ではエストロジェンについては、10^<-8>から10^<-7>Mの範囲で直線性が得られ、ビスフェノールAでは10^<-4>から10^<-3>Mの範囲で直線性が得られた。ともに、それより濃度が高くても低くても反応が低下した。その反応性の状態からビスフェノールAはエストロジェンに比べて10^<-4>の活性を示すものと考えられた。シーラントそのものが、酵母に対して毒性を持っており、約20倍の希釈が必要であったが、少なくともこの濃度ではシーラントにエストロジェンレセプターとの反応性はみとめられなかった。 2年目においては、さらに微量のビスフェノールAを測定するためにGCMS法を用いて定量をおこなった。シーラントにはきわめて微量のビスフェノールAしか含まれていないため、測定に先立って濃縮・精製の操作を行った。シーラント2.5185gにメタノール30mLを加えて抽出する操作を2回行い、その濃縮液を5%含水シリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけて精製を行った。これをGCMSにアプライし、最終的に、シーラント1g当たり0.025μgのビスフェノールAが検出された。 今後はその唾液への溶出量と吸収量、実際にホルモン効果がありうるのか等について検討してゆく予定である。
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