研究概要 |
目的:Overhangの修復物マージン形態は歯周疾患のリスク要因である。しかし,マージンがoverhangではなく適合の良い形態でも歯肉縁下(以下,縁下と略す)に位置する場合,歯周疾患を助長を思わせる症例を臨床現場で経験する事は多い。今回,外来患者の診査結果から縁下に位置するマージンと歯周疾患の関連を調査したので報告する。 対象:平成11年2月1日現在における新潟大学歯学部付属病院予防歯科外来登録患者(休止中の者は除く)から50歳未満の計251名中,調査項目(口腔診査,アンケート)に不備のある者,部分義歯装着者,全ての第一大臼歯喪失者を除く190名分(平均:37.126歳 S.D.:9.429 男性:69名 女性:121名)の全歯面を対象とした。年齢を50歳未満に限定したのは,修復物による歯周組織への影響は早期に現れることによる。対象歯面は一歯につき咬合面を除いた頬舌側各々の近遠心および中央の6箇所,計31920歯面から喪失歯(C4診断歯も含む)154歯分を除く30996歯面を分析対象歯面とした。 方法:対象歯面を,S群(非修復歯面群),修復歯面を縁下マージンの有無によってM(-)群(縁下マージンなし)およびM(+)群(縁下マージンあり)に分類し計3群とした。分析対象項目は各歯面における出血の有無,P.D.(歯周ポケットの深さ)およびL.A.(loss of attachment)の計測値(mm)とし、出血の有無については各群間でクロス集計およびχ2検定を,P.D.およびL.A.については各群別に平均値を算出し一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較による検定を行った。 結果および考察:分析対象項目の内,出血の有無についてその頻度は,S群,M(-)群,M(+)群の順に7.3%(1812/24973),7.4%(252/3396),11.0%(262/2381)【( )内数値は出血歯面数/全対象歯面数】で,S群とM(+】群およびM(-)群とM(+)群の群間で有意【P<0.000】であった。P.D.について,その平均値は各群それぞれ1.535(S.D.:0.756),1.656(S.D.:0.796),1.848(S.D.:0.825)で,3群間すべてで有意【P<0.000】であった。同様にL.A.については,1..313(S.D.:0.950),1.765(S.D.:0.958),1.760(S.D.:0.982)で,S群とM(-)群およびS群とM(+)群の群間で有意【P<0.000】であった。これらの結果は,縁下に位置するマージンにより,嫌気的環境が増しプラーク中などの細菌の質的量的変化が生じ,歯周疾患が発生・進行するとの学説を支持するものである。今回の調査に用いたデータは断片結果であり,修復物の履歴や修復前後の歯周組織の状態は不明である。よって,縁下に位置する修復物のマージンをリスク要因として特定するまでには至らなかった。しかし,歯周疾患の進行を助長する一因子であることは一層明らかにされた。修復物のマージンを縁下に設定することは極力避け,加えて口腔ケアーの充実を図ることは重要である。さらに,修復に至る原因であるう触を予防することが,歯周疾患の予防対策にもなるとの認識が必要である。
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