研究概要 |
ダウン症候群(DS)では早期に重篤な進行性歯周炎を発症することが知られている.若年性歯周炎とDS歯周炎との臨床病態の類似性から若年性歯周炎の原因菌として注目されているA.actinomycetemcomitans(Aa)の関与が推測されているが,DS歯周炎に特徴的な歯周病原菌の同定の試みはほとんどなされてはいない.そこで,本研究ではPCR法によりDS患者の歯肉縁下プラーク細菌を検出し,その被検者毎の分布と歯周炎症状態との関連性を検索した. 49名のDS被験者(2-31歳)及び60名の健康小児(2-13歳)より採取した歯肉縁下プラークより抽出したゲノムDNAと菌種特異的なプライマーを用いたPCR法により10種の歯周病原菌の検出を行った.P.gingivalis線毛の型別の判定はfimA遺伝子型特異的なプライマーを用いたPCR法により行った.歯周状態は歯周ポケット深さ,Probing時の出血,歯肉炎指数を診査した. 2-13歳のDS被験者からは10種全ての歯周病原菌が検出され,健康な小児被験者に比べ顕著に高い検出頻度を示したが,Aaの検出率には有意な差は認められなかった.また,P.gingivans,T.denticolaおよびB.forsythusはDS被験者群のみから検出され,健康対照者では検出されなかった.14歳以上の歯周炎を有するDS被検者では,ポケット深度とP.gingivalisの分布に明らかな関連性が認められた(p<0.01).さらに検出されたP.gingivalisのfimA遺伝子型はほとんどがII型および従来報告のなかった新たなfimA遺伝子型であった.以上の結果から,DS乳幼児への歯周病原菌の早期定着が示されたとともにDS歯周炎と特定のfimA遺伝子型を有するP.gingivalisの関連性が示唆された.
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