研究概要 |
歯科矯正学的歯の移動は,痛みや不快感を引き起こす。歯に矯正力を加えると,歯根膜内に炎症反応が起こり疼痛に関与しうる物質が放出される。ところで,前早期遺伝子c-fosは,核タンパクFosを誘導する。シナプスの活性化後の脳におけるFosの誘導は,ニューロンに特異的であり,c-fosの活性化は,脳におけるニューロンの経路を調べる指標として用いられることが報告されている。そこで,我々は,脳におけるc-fos発現に対する実験的歯の移動の影響を,Fosに対する免疫組織化学を実施することにより調べた。ラットの片側上顎臼歯間に歯科矯正用エラスティックモデュールを挿入した。実験的歯の移動開始24時間後,Fos免疫陽性ニューロンが,侵害情報の伝達路を含むと考えられている三叉神経脊髄路核亜核およびlateral parabrachial nucleusに出現した。また、実験的歯の移動後、実験群のラットの前脳群のラットの前脳において,扁桃中心核,視床下部の室傍核および視床の室傍核にFos免疫陽性ニューロンの発現が認められた。ところで、N-methyl-D-asparate(NMDA)受容体は、疼痛の生ずる過程で多面的な働きを持つことが知られている。そこで、我々は、実験的歯の移動時におけるNMDA受容体の拮抗薬であるMK-801の影響を調べた。歯の移動開始前にMK-801を投与すると、実験的歯の移動開始24時間後に認められた扁桃中心核,視床下部の室傍核および視床の室傍核のFos免疫陽性ニューロンの発現が抑制される傾向が認められた。これらの結果から、本実験系は、三叉神経の支配領域における疼痛の中枢神経に対する影響を調べるうえで、有用な系であることが示唆された。
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