研究概要 |
第三リン酸カルシウム(TCP)で調製したシートを人工脱灰を施したエナメル質に密着剤を介して貼付け,レーザー照射によるアブレーションがエナメル質への再石灰化に及ぼす影響を観察した。 抜去ヒト大臼歯の近・遠心側面を約200μm除去してから,通法に従って研磨後,0.1M乳酸緩衝液(0.3mMHAP,pH4.5)で4時間脱灰処理しエナメル質片とした。同一歯片の1面は,TCPシートを介してレーザー照射,他面は対照用に供試した。TCPシートの作製は,寒天末とデンプンに平均粒径が0.41μmのTCPスラリーおよび精製水を加え,85℃で溶解して,その適量をプラスチックシャーレに流し込み,37℃で18時間,乾燥と熟成を行って,厚径を30μmと60μmのシートにした。また,シートの密着剤として,精製水,0.3mM HAp溶液,5%TCPスラリーおよびAPFジェルを用いた。レーザー光は,QスイッチYAGレーザーの第3高調波(355nm)とし,その照射条件は150mJ/cm^2(2,000shots)〜350mJ/cm^2(1,000shots)とした。各群を6検体とし,その半数はレーザー照射後1M-KOHで洗浄,残りはさらに人工唾液に浸漬してから,KOH洗浄後に形態観察を行った。 エナメル質に直接レーザーを照射すると,約100mJ/cm^2のエネルギーでアブレーションが生ずる。しかし,TCPシートのアブレーションには100mJ/cm^2以上のエネルギーが必要であり,かつシートが厚くなればより高いエネルギーが必要であった。密着剤に精製水を用いると,エナメル質表層の堆積物は極めて少なかったが,HAp溶液とTCPスラリーおよびジェルでは明確な堆積物が認められた。シートの厚さが30μmでは200mJ/cm^2,60μmでは300mJ/cm^2の照射エネルギーで,アブレーションによると考えられる堆積物がエナメル質表層に観察された。さらに人工唾液による浸漬操作を加えると,堆積物の固着性と平滑化が増した。
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