資料として日本モンキーセンター栗栖研究所所有の、屋久島で捕獲され日本モンキーセンター犬山野猿公苑で飼われていた第一世代と同野猿公苑で生まれ育った第二世代から第四世代の雌成獣ヤクシマザルの乾燥頭蓋を用いた。成獣の判定はSchultzの歯牙年齢の分類法(1933)をもとにして行い、第三大臼歯まで完全に萌出しているものを成獣とした。 方法は、上下歯列弓に対しては長径と幅径をデジタルノギスと模型計測器を用いて計測し、歯は遠心幅径および霊長空隙の長さをデジタルノギスを用いて計測した。得られた計測値に対して第一世代と各世代間で統計処理(t検定および主成分分析)を行った。第四世代は歯周疾患が甚だしく歯列弓の計測できない個体があり、第四世代の統計処理を行うことができなかった。 結果は、歯列弓はt検定において幅径では上顎はP3-P3、M1-M1、M2-M2およびM3-M3が第一世代より第二世代で有意に短く、下顎はC-C、P3-P3、M1-M1およびM2-M2が有意に短かった。長径では上顎のI1-C、I1-P3、I1-M1で第一世代より第二世代で有意に短く、I1-M2とI1-M3は世代を追って有意に短くなった。主成分分析では上下歯列弓の大きさに縮小傾向が生じ、形態も変化することが示唆された。歯の大きさには特定の傾向は認められなかった。 ヤクシマザルの食性は、屋久島では果実、葉、種子、花、昆虫およびキノコを食しているのに対し(揚妻、1995)、日本モンキーセンター犬山野猿公苑では餌としてサツマイモ、リンゴ、さなぎ、小麦、果実およびピーナッツを与えられていたことから、この野生状態から人工的な状態への食生態の軟食化および高栄養化が咀嚼回数および咀嚼時間の減少を招くことになり、歯列弓形態に変化をもたらしたものと考えられる。
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