研究概要 |
乳歯エナメル質表層のFとMg濃度の分析では,F濃度はDown症児は健常児に比して相対的に低い濃度を示し,歯頚側内層においてその差は顕著であった。Mg濃度の分析では,Down症児は健常児に比して全層において高い濃度を示し,内層においてその差は顕著であった。エナメル質表層部の酸脱灰性では,Down症児は健常児に比して脱灰量は大きかった。これらの結果からは,Down症児の歯の低齲触性を証明する結果は得られなかったため,より内層の新産線周辺部の組成分析をDown症児と健常児で比較した。その結果,新産線内外の何れの深さでもF濃度はDown症児は健常児に比して低い濃度を示し,Mg濃度は両者間に顕著な差は認められなかった。これらの一連のエナメル質の生化学分析からは,Down症児の歯の低齲触性を肯定する結果は得られず,逆に,エナメル質の低石灰性がトリソミー21の特異性であることが強く示唆された。 Down症児の歯肉繊維芽細胞は通法の継代培養を重ねることが極めて困難で,継代培養が可能であった細胞についてもDown症の細胞増殖能が明らかに劣り,Down症患者の歯周疾患の易発症性,難治性,憎悪傾向と関連付ける結果が得られた。しかし,通法の継代培養を重ねることが困難であった細胞にDown症患者の歯周疾患発症の特異性を示す情報が多く含まれていると推察されるため,今後,この分野の分析が必要と考える。
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