研究概要 |
ダウン症患者の歯周病の発症には,好中球機能の低下とりわけFMLPに対する走化能の低下が関与するとされる。歯周病患者および健常者末梢血中の好中球走化能を迅速かつ的確に測定・評価する方法として48穴マイクロケモタキシスチャンバーを用い,結果を画像取り込み装置を用いて解析する方法を確立した。その結果,FMLPに対しては10^<-7>Mが,C5aに対しては10^<-8>Mが,またIL-8に対しては100ng/mlが至適濃度であることを確認した。もし,ダウン症患者の好中球走化能の低下がFMLPに特異的であるとすれば,FMLPに対する細胞膜上の受容体の動態からさらにその機序を解析する必要がある。また,すべての走化因子に対して走化性が低下していれば細胞の運動性そのものに低下が疑われる。この結果は,ダウン症患者のみならず,好中球機能の低下が疑われる歯周病患者の診査・診断にも同検査が適用できる可能性を示している。また,ダウン症患者は細胞の老化マーカーとされるテロメア長の短縮速度が健常者に比べ速いとされている。すなわち,ダウン症は早期老化症の一つに数えられる。患者の歯根膜組織の再生能力を歯根膜細胞の分裂能,走化能の面から評価する方法として,培養系を用いた測定法を確立した。健常者の細胞を用いた場合,その最大分裂回数は若年者で20回程度,老年者で4-8回程度であった。この年齢依存的分裂能の低下がダウン症患者ではいち早くおこるものと推定される。また,走化能においては,老年者では化学走性よりもむしろ,細胞の運動性そのものが老化に伴って強く影響を受けることを明らかにした。すなわち,生体の老化に伴って細胞の増殖運動性のいずれもが低下し,組織の修復能力を低下させることが明らかとなった。
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