研究概要 |
(1)ダウン症患者の末梢血好中球機能 : ダウン症患者の好中球走化能を走化因子としてFMLP,IL-8,C5aを用い評価した。その結果,ダウン症患者由来好中球は用いたいずれの走化因子に対しても濃度依存性に走化性を示した。また至適走化因子濃度における遊走細胞数は同年代の健常対照と同程度であり,機能低下はなかった。すなわち従来報告されているような好中球の走化能に機能低下はなかった。 (2)in vitroにおける組織修復機能 : ダウン症患者の体細胞は,健常者に比ベ,より急激な速度で老化(replicative senescence)することが知られている。これは,細胞の老化マーカーであるテロメアの短縮速度が正常細胞に比べ速いことに起因する。また,静止期に達した細胞では増殖因子による刺激に対して細胞増殖に必須の転写因子であるc-fosの発現が低下することが知られている。そこで,ダウン症患者の体細胞モデルとして老年者由来細胞を用い,塩基性線維芽細胞増殖因子に対する走化能を若年者由来細胞と比較した。細胞には歯周組織の再構築に最も重要であるとされる歯根膜線維芽細胞を用いた。生体の老化に伴って,歯根膜線維芽細胞の遊走能が低下した。また,走化したすべての細胞がc-fosを発現しているのに対し,遊走しない細胞ではc-fosを発現した細胞とそうでない細胞が混在していたことから,c-fosが細胞の遊走に関与すること,また老化細胞における定化活性の低下にc-fosの発現低下が深く関与することが示唆された。以上の結果から,ダウン症患者に見られる重度歯周炎の成因には,従来報告のある好中球の機能低下よりも,生体の急激な老化現象がもたらす歯根膜組織の修復能力の低下が関与する可能性が示された。
|