研究概要 |
近年、細胞内情報伝達に関与する種々の蛋白質の相互認識部位に対応する10-20残基程度のペプチドにより、これらの蛋白質間の相互作用がブロックできることが報告されてきている。このアプローチによって、例えばある疾病の引き金を引くような細胞内情報伝達を阻止できれば、新しい疾病の治療法の開発への糸口になりうると考えられる。 申請者らは、膜透過べプチドにより蛋白質相互認識部位に対応するペプチドを細胞内に導入するために、膜透過性のキャリアペプチドの検討を行った。その結果、既知のHIV-1Tat由来ペプチドの他、HIV-1RevなどのRNA結合性塩基性ペプチドが高効率的にマウスマクロファージ由来RAW264.7細胞やサル腎臓由来COS-7細胞内に移行し、核に集積することを確認した。ついで、これらのペプチドとハイブリダイズすることによりカルボニックアンヒドラーゼ(分子量26,000)も細胞内に容易に導入できることを見いだし、上記のペプチドが合成ペプチドの細胞内導入に極めて有用なキャリア分子となることを示した。次いで、合成ペプチドを用いた細胞内蛋白相互作用の調節の可能性を検討するため、モデルとして近年種々の疾病に関与することで注目されている一酸化窒素合成酵素(iNOS)の誘導の調節を試みた。すなわち、上記のキャリアペプチドと、iNOSの誘導の主たる引き金とされる転写因子、NF-kBの活性化に関与する蛋白質IkBのリン酸化部位、およびユビキチン化部位に対応するペプチドとのハイブリッドペプチドを合成し,iNOSの誘導をRT-PCR法で検出することによりNF-kBの活性化の評価を行った。これらのペプチドをRAW264.7細胞に投与した結果、全体としてiNOSの発現の抑制傾向が見られたが、再現性に問題があり、レポータ遺伝子等を用いたNF-kB発現の直接的評価等を現在検討中である。
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