研究概要 |
天然ポリフェノールが示す種々の生物活性の機構の基礎的検討の一環として,各種ポリフェノールのペプチド・タンパク質との相互作用について昨年度に引き続き検討を進めた.本年度は,サイズ排除クロマトグラフィーを中心として,ポリフェノールとペプチド・タンパク質が形成する複合体の挙動について検討を加えた.サイズ排除クロマトによる分析においては,種々の天然ポリフェノールについて,タンパク質・ペプチドとの共存時に,難溶性の沈殿を形成してしまわず,かつサイズ排除クロマトによって観測可能な程度に,すなわち複合体が解離してしまわない程度に,比較的強い結合を形成する組合せを明確にする必要があった.そこで水素核の核磁気共鳴(NMR)スペクトルのシグナルの幅広化等に基づいて可溶性複合体として解析可能なポリフェノールおよびタンパク質・ペプチドの組合せを選択し,さらに,サイズ排除クロマトの担体や限外ろ過との組合せの選択等の過程を経て,そうした可溶性複合体の分子量分布についても観測可能であることを明らかにすることができた.他方,本研究の過程で,疎水性相互作用がポリフェノールとペプチドとの相互作用において重要であることを明らかにしてきたことをふまえて,顕著な生物活性を有する天然ポリフェノールの探索を進め,漢方で最も繁用される生薬のひとつであるカンゾウから,抗生物質耐性菌の一種であるメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)に対する強い抗菌作用を有するポリフェノールを得るに至った.特にプレニル基を有し疎水性の高いものに強い抗菌作用を有するものを見いだし,それらのうちlicoricidinについては,MRSAのオキサシリンに対する耐性を抑制することをも明らかにした.
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