1.プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)阻害薬の合成と活性評価:PNPは、プリンヌクレオシドをリボース-1-リン酸とプリンに可逆的に加リン酸分解する酵素である。PNP阻害薬は、T-細胞白血病などの細胞性免疫の異常により引き起こされる疾患の特異的な治療薬としての利用が期待されている。無機リン酸のミミックとなる「CF_2P(O)(OH)_2」とプリン塩基をシクロプロパン環あるいは環状エーテルを含むアルキルスペーサで連結した数種類の新規ヌクレオチドアナログを合成した。シクロプロパン環を含むアルキルスペーサで連結したヌクレオチドアナログは、ヒト赤血球由来のPNPには高い親和性を示さなかったが、微生物由来のCellulomonas sp.PNPに高い阻害活性が認められた。一方、環状エーテルを含むアルキルスペーサで連結したヌクレオチドアナログは、大腸菌由来のPNPには全く阻害活性を示さなかったが、ヒト赤血球由来PNPに対して極めて高い阻害活性を示した。 2.低分子量型プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)阻害薬の合成と活性評価:PTPは、組織内情報伝達系で細胞の増殖などに関与する酵素である。PTP阻害薬は、新しいタイプの抗がん剤を見いだすためのリード化合物となり得る。リン酸化チロシンのエステル酵素を「CF_2」で置き換えたα、α-ジフルオロベンジルホスホン酸型類縁体(1)ならびに1のP=O結合を「P=S結合」で置き換えたホスホノチオ酸型類縁体(2)の簡便な合成法を開発した。合成されたジフルオロベンジルホスホン酸型類縁体(1)の中には、Ser/Thrホスファターゼには阻害活性を示さないが、PTPに選択的に阻害活性を示す分子があった。また、ホスホノチオ酸類縁体(2)のPTP阻害活性は、対応するホスホン酸(1)よりも高まることが明らかとなった。
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