研究概要 |
古来,各種疾病の治療のために多種多様の天然薬物が用いられている.それらの中のいくつかは,多くの研究者らによって繰り返し精査され、薬効成分ならびにその作用メカニズムの全容が解明されているが,残る大半の天然薬物は,それら作用機序はおろか活性物質本体さえ未詳のまま残されている. 本研究では,古くから伝承され今日まで用いられている生薬のうち,地竜,水蛭および蝉退など動物を基原とする生薬を研究対象に選定し,それらの化学的研究を実施し,薬効成分本態の解明をめざすとともに新たな生物活性を有する医薬リード化合物の発見を中心課題とした.今年度は、環形動物(Annelida)を基原とする生薬,「地竜」と「水蛭」ならびに「蝉退」の成分精査を行った. 1) 環形動物(Annelida)を基原とする生薬,地竜および水蛭の成分精査 前者より新たに4種のグリセロホスホコリンと4種の中性糖脂質を単離し,それら構造を決定した.また,後者より9種の中性糖脂質を得,それら全構造を解明した.環形動物由来のスフィンゴ糖脂質は,いずれも新規な糖鎖構造を持つことが明らかとなった. 2) 蝉退(Cicadidae)の成分研究 本生薬中よりN-acetyldopamineの二量体に相当するベンゾダイオキシン骨格を有する数種の化合物の純粋単離に成功した.これらは,節足動物表皮のいわゆるcuticule tanninとして知られる化合物群であるが,既報の物質は,すべて光学不活性な化合物としてしか得られていない.本研究で得た物質は,すいずれも光学活性物質であり、今後,CDスペクトル,力場計算などによるそれら絶対配置の決定を試みる.また,本生薬がアトピー性皮膚炎の治療に用いられていることがら,抗ヒスタミン作用の有無についても検討する予定である.
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