研究概要 |
前年度に引き続き「動物生薬を対象とした医薬リード化合物の探索」研究の一環として今年度は,「蝉退」ならびに「イシワケイソギンチャク」の成分精査を行った. 1)「蝉退」・・蝉退よりN-acetyldopamineの二量体に相当するベンゾダイオキシン化合物5種の純粋単離に成功した.本研究で得た物質は,既報の化合物群とは異なり,いずれも光学活性であることからCDスペクトルおよび力場計算などによる絶対配置の決定を試み,それらがいずれも2R,3S配置をもつことを明らかとした.また,本生薬がアトピー性皮膚炎の治療に用いられていることから,ブタ腸管を用いた抗ヒスタミン作用の有無を観察したが顕著な活性は認められなかった. 2)「イシワケイソギンチャク」・・・イソギンチャクは主に食用に共されるほか痔,脱肛の治療に外用薬として用いられるという.我々は有明海に生息するイシワケイソギンチャク(Actiniogeton sp.)を入手し,それらの総脂質フラクションの精査を実施し,いわゆるC-P化合物として知られる4種のスフィンゴホスフォノリピドとともに5種のサイクリックアセタール型グリセロホスフォエタノールアミンの単離に成功した。今日,これら化合物はプラズマローゲンから生成したアーティファクトであり,自然界にはアセタール型としては存在しないとする説が定説として広く認められている.我々は最新の分離技法とNMRスペクトルの解析ならびに組織染色試験などから得られた知見より,従来説と異なり,これら化合物が本動物に存在することの確証を得た.さらに,2Rおよび2S-3-chloro-1,2-propanediol acetonideよりこれら化合物を合成し,天然物との旋光度の比較によりアセタール部の絶対配置の決定に成功した.
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