研究概要 |
有機化学に於いて、最近10年間で最も進歩した分野は有機金属化学であろう。とりわけ、パラジウム触媒を用いたアリール化反応の爆発的進歩には目覚ましいものがあり、有機合成化学に於いて、その反応が利用される頻度は列挙が困難なほどである。 我々は数年前に、抗腫瘍性抗生物質デュオカルマイシンSAの全合成過程において、分子内ケトンのα位をアリール化する必要が生じ、当時知られていた手法[1)silyl enol ether化 2)Pd触媒、Bu_3SnF、加熱]をその簡便性、収率ではるかに上回る触媒系[PdCl_2(Ph_3P)_2,Cs_2CO_3]を見い出した。本反応系は分子内反応として一般性があり、アリール基の縮合した架橋、及びスピロシクロアルカノンの簡便合成法へと展開した。今回、更にその汎用性を高めるべく検討した結果、以下の研究成果を上げることが出来た。 (1) ホルミル基をターミネーターとする分子内パラジウム触媒閉環----ホルミル基のα位もTHF中、分子内でPd触媒下アリール化を受け、テルペン等の合成に有用と思われる3環性成績体が好収率で得られた。この際、トルエン等の低極性溶媒中では、アリール基はホルミル基の炭素-水素結合に押入され、結果としてFriedel-Crafts型の反応が起こることも見い出した。 (2) ニトロ基をターミネーターとする分子内パラジウム触媒閉環----これまで、ニトロ基のα位にPd触媒下アリール化が起きた例はなかったが、上記触媒系のもと、分子内反応でニトロ基もターミネーターとして機能することを見い出した。成績体のうち、2級のニトロ基は一部カルボニル基へと変化し、また3級のニトロ基は部分的に、スチレン型のオレフィンへと変化することも判明した。 現在、これらの知見を応用した天然物合成を鋭意検討中である。
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