研究概要 |
以前、我々は、強力な抗腫瘍性抗生物質duocarmycinSAのA環部類縁体をその活性評価の目的で合成した際、bis(triphenylphosphine)palladium(II)chloride-cesium carbonate-triphenylphosphineの組み合わせで、アセチルメチル基がα-ピリジニル化され、三環性フェノールが高収率で得られることを見い出した。本反応条件はそれまで知られていた類似反応(ケトンα位のアリール化)をその簡便性、収率の点で大きく凌駕するものである。そこで本反応の一般性を確立すべく、種々検討を重ねた結果、本反応はケトン基のみならず、ホルミル基、更にはニトロ基の分子内α-アリール化にも適用することが出来、これにより、多様な多環系構築が可能であることが判った。同時期に、日本、アメリカの3つのグループにより分子間のケトンα-アリール化が報告された。ニトロ基では、そのα-アリール化はもちろん、アルキル化することも困難とされてきたが、分子内とはいえ、容易にアリール化できたことは、注目に値する。また、全合成などへの応用を考慮すれば、ホルミル基やニトロ基は多彩な変換に対応でき、中間体としての潜在価値が高いといえる。 これらの知見を踏まえて、我々は、本反応を応用したHetisan型アコニットアルカロイドの全合成研究に着手した。400種を越えるアコニットアルカロイドの合成研究は、その多様性かつ複雑な骨格や、顕著な生理活性を背景として、古くから多くの研究者により挑戦されており、これまでにAtisineやChasmanineなど数種が全合成されている。しかしながら、7環性骨格を有するNominine,KobusineなどのHetisan型アルカロイドに関しては、その全合成はもちろん、骨格合成の報告も無い。 現在、上記ホルミル基のα-アリール化を効率的に利用して、4環性中間体の合成ルートを確立した段階にある。残り3つの環形成を行うことによる初の全合成に向け、鋭意検討中である。
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