最近当研究室では、コール酸(CA)がラット肝ミクロソーム画分においてアデノシン-5'-モノホスフェート(AMP)との混合酸無水物であるアデニレート(CA-AMP)に変換されることを実証するとともに、これが非酸素的にタウリン抱合型CAに誘導されることを指摘した。そこで、CA-AMPのアミノ基との反応性に着目し、以下の検討を行った。 まず、モデルペプチドとしてサブスタンスPを取り上げ、生理的条件下CA-AMPと反応させ、反応の様相をMALDI-TOFMSによって経時的に追跡した。その結果、時間の経過と共にSPとCAとが1分子及び2分子結合した付加体と思われるプロトイン付加イオンが出現した。そこで、72時間後の反応液をHPLC分析に付し、付加体に相当する画分を分取し、MALDI-PSDスペクトルを測定してSP標品のそれと比較検討し、各フラグメントイオンを帰属した。その結果、溶出時間の早い画分はN末端アルギニンまたはリジンのε-アミノ基にCAが1分子結合した付加体の混合物であり、遅い画分は両アミノ酸残基に2分子付加した修飾ペプチドであることが判った。 引き続き、リゾチームをモデル蛋白としてCA-AMPと反応させ、同様にMALDI-TOFマススペクトルを測定したところ、リゾチームとCAとの付加体と思われるプロトン付加イオンが出現した。そこで、本反応混合物をジチオスレイトールで還元後カルボキシメチル化し、さらにリシルエンドペプチダーゼで限定分解して、得られるペプチド混合物のペプチドマッピングを行った。その結果、リゾチームの1、13、33、97、又は116番目のリジンのε-アミノ基にCAが1〜2分子結合していることが明らかとなった。これらの成果は、CA-AMPが細胞内核ヒストン結合胆汁酸の前躯体の可能性を示唆するものであり、今後大腸癌の病因の解明、病態解析の手掛かりの一つとして大きく期待される。
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