胆汁酸のグルクロン酸抱合は、アミノ酸抱合とともに重要な第II代謝反応であり、肝胆道疾患と密接に関連している。そこでまず、肝グルクロニルトランスフェラーゼの特性に検討を加え、遊離型胆汁酸が24位カルボキシル基を介したエステル型グルクロニド(G)に変換されることを見い出し、しかもその基質特異性がモノヒドロキシ胆汁酸に極めて高いことを明らかにした。次いで、エステル型グルクロニド標品5種を合成し、LC/ESI-MSによる検出感度1pmolという高感度一斉分析法を構築するとともに、本法を尿試料に適用し、健常人ではリトコール酸(LCA)24-G、ケノデオキシコール酸24-G及びデオキシコール酸24-Gの存在することを実証した。エステル型グルクロニドは、一種の活性エステルであり、蛋白のアミノ基と反応して付加体を与える時、胆汁うっ滞等の肝毒性を喚起することが予想される。そこで、モデル蛋白としてリゾチームを取り上げ、生理的条件下LCA24-Gと反応させ、生成する付加体の構造をMALDI-TOFMSによって明らかにし、エステル型グルクロニドが蛋白付加体の前駆物質である可能性を示した。引き続き、胆汁酸のアミノ酸抱合に検討を加え、コール酸(CA)がラット肝ミクロソーム画分においてアデノシン-5'-モノホスフェート(AMP)との混合酸無水物であるアデニレート(CA-AMP)に変換されることを実証するとともに、これが非酵素的にタウリン抱合型CAに誘導されることを指摘した。さらに、CA-AMPのアミノ基との反応性に着目し、モデル蛋白リゾチームとの付加体の生成に検討を加え、生成物の構造を、先と同様にMALDI-TOFMSによって明らかにし、CA-AMPが細胞内核ヒストン結合胆汁酸の前駆体の可能性を指摘した。これらの研究成果は、胆汁うっ滞とともに大腸癌の病因の解明、病態解析の手掛かりの一つとして期待される。
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