研究概要 |
近年,神経筋疾患の発症機構としてトリプレットリピートの伸長という遺伝病が発見され,この発症機構とDNAの構造多形との相関が注目されている.本研究は,1)三重鎖DNAの熱測定による熱安定性の解析,2)リピート配列の構造多形によるクロマチン形成への影響などを明かにすることを目標とした. (1)オリゴ単鎖と三重鎖DNAの熱力学的および速度的諸量の測定:化学的に修飾した4種のピリミジン鎖15-merを合成しピリミジン・プリン二重鎖23-merとの間で形成される三重鎖の熱力学的ならびに速度論的性質に及ぼす化学修飾の効果を恒温滴定型熱測定計および表面プラズモン共鳴法を用いて検討した.単鎖のdeoxyuracil,RNA,2'-O-methylRNAから形成される三重鎖はほぼ同じ熱力学的および速度論的性質を示した.これに対して,骨格のリン酸基をホスフォチオエイトに化学修飾したオリゴマーからの三重鎖の安定度は,他のものに比べて1/10に減少した.これらの結果は,塩基または糖部位の修飾よりも骨格リン酸基部位の修飾が三重鎖の形成に大きな影響を与えることを示した. (2)DNA高次構造のヌクレオソーム形成に及ぼす影響:三重鎖形成能を有するプリン・ピリミジン配列および筋緊張ジストロフィーで見られる(CTG)n配列のクロマチン構造を解析した.これらの配列を酵母ミニ染色体にクローニングして,出芽酵母に導入して,in vivoでミニ染色体としてクロマチン構造を間接末端法などを用いて解析した.三重鎖形成の配列はヌクレオソームを破壊または不安定化すること,また,トリプレットリピート(CTG)_<12>はその近傍にヌクレオソームの形成を促進するが,(CTG)_<12>配列はその近傍からこれを排除することが明かとなった.
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