薬物の経皮吸収促進剤の作用機構を特に皮膚の親水性変化の観点から明らかにする目的で、安息香酸とその4-アルキル置換体のモルモット背部摘出皮膚透過性を観察し、アルキル置換基中のメチレン基の皮膚移行の自由エネルギー変化を求めることにより皮膚の親水性変化について検討した。角質層除去や脱脂によりメチレン基の皮膚移行の自由エネルギー変化の絶対値が減少し、皮膚の親水性変化が見られたが、同様にN-dodecyl-2-pyrrolidone等の吸収促進剤を添加した場合にも同様な変化が観察され、親水性薬物に対する吸収促進作用の一因となっていることが推定された。 また、5-ドキシルステアリン酸をスピンラベル剤としてESRスペクトルを観察することによりスピンラベル剤の皮膚中での存在部位と皮膚の状態変化について観察した。トリプシン処理によって得られた角質層においては、ゲル状態の脂質二重層中に存在するときに観察される典型的なスペクトルが観察され、スピンラベル剤が角質層中の脂質ラメラ層中に存在することが推定された。一方、皮膚全体をスピンラベルしたときには、既に報告しているように上述のスペクトルとは別に弱く運動性を抑制されたスペクトルも共存して観察されることから、角質層ラメラ以外の部位でも存在することが推定された。さらに脱脂した皮膚においては固体状態に近いスペクトルが観察されたことから、真皮のコラーゲン等の線維蛋白質に結合した状態で存在することが推定された。角質層が損傷していない皮膚においてはこのスペクトルは観察されなっかたことから、正常な状態ではスピンラベル剤は線維蛋白質には結合していないことも示唆された。スピンラベル剤の存在部位を明らかにすることは吸収促進剤の作用部位を明らかにする上でも有用であると考えられるので平成11年度はさらに種々のスピンラベル剤を用いて検討を進めたい。
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