種々の化合物の経皮吸収促進作用の特徴を明らかにするとともに、スピンラベル法を用いることによって皮膚中での吸収促進剤の存在部位ならびに存在状態を明らかにすることを試みた。そこで、界面活性剤の中でも特に著しい促進作用を示すことが知られているカチオン性界面活性剤の長鎖アルキルトリメチルアンモニウム化合物の作用機構について、モルモット背部摘出皮膚を対象として検討した。安息香酸の4-n-アルキル置換体の皮膚透過性に及ぼす影響の観察結果は、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム化合物の添加によって皮膚が親水性に変化することが安息香酸等の比較的親水性の高い薬物の経皮吸収を促進する原因であることを示した。そこで、アルキルスピンラベルを用い、皮膚におけるアルキル化合物の局在について、モルモット背部摘出皮膚、皮膚角質層、脱脂皮膚、角質層脂質リポソームでの電子スピン共鳴(ESR)スペクトル解析により検討した。その結果長鎖脂肪酸スピンラベルは角質層脂質ラメラ中に、長鎖脂肪酸エステルスピンラベルは角質層中のかなり流動性の高い領域に、長鎖アルキルアンモニウムスピンラベルは角質層の蛋白質中に存在すること、短鎖アルキルアンモニウムスピンラベルは皮膚のバルク水中に存在することが示唆された。アルキル化合物はその電荷とアルキル鎖長に依存して皮膚での局在が異なることを示しており、この局在性の違いが電荷や鎖長の異なるアルキル化合物の経皮吸収促進作用の違いを生じている一つの原因となっていることが推定された。特に長鎖アルキルアンモニウム化合物については、角質層の蛋白質との相互作用に基づく皮膚の親水性の変化が、その顕著な吸収促進作用の主要な原因であることが推定された。研究では、さらに、二本鎖カチオン性界面活性剤の分子集合状態をスピンラベル法によって明らかにし、その吸収促進の機構を明らかにした。
|