当該研究では生体中の鉄ポルフィリンの機能に関する研究の基礎的知見を得るために、構造異性体分子である鉄コルフィセンとイミダゾールとの反応性を調べた。はじめに、特異な性質をもつ鉄原子がたんぱく質の反応性をどのように変えるかを検討するため、エチオコルフィセン(周辺置換基が4メチル-4エチル型の化合物)をミオグロビンに組み込んだ再構成ミオグロビンをつくった。このミオグロビンは、驚いたことに、天然ミオグロビンと比べて酸素親和性が1/13にも減少していた。一酸化炭素結合能力にいたっては1/128にまで減少していた。この結果はポルフィセン鉄原子が近位ヒスチジンに引き寄せられやすいことに対応する。 また、クロロホルムに溶かした鉄(III)コルフィセンへのイミダゾール類の結合過程を詳細に検討した。その結果、1-メチルイミダゾールが2段階で結合し、途中でモノ錯体が多量に蓄積する現象を見つけた。モノ錯体蓄積がほとんど起きない鉄ポルフィリンとは対照的な結果である。この現象は鉄原子がコルフィセン平面から浮き上がりやすいために起きたと解釈でき、ミオグロビンでの反応性変化とつじつまが合う。 鉄原子が分子平面から浮上がりやすいならば、鉄原子の磁気的性質にも影響がおよぶと期待される。そこで、今度は酸化型ミオグロビンのアジド化合物のスピン平衡(高スピン【double arrow】低スピン)を解析した。この現象は鉄イオンの配位環境変化を敏感に反映することからである。スピン平衡の解析結果より、コルフィセン再構成ミオグロビンは高スピン状態にあると判明した。低スピン状態にある天然ミオグロビンと比べるとまったく異常な結果である。すなわち、コルフィセンに含まれる鉄原子は酸化型、還元型ともに平面から浮上がりやすいことが判明した。当該研究により、ポルフィリン鉄とコルフィセン鉄の顕著な差が明らかになった。
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