研究概要 |
前年度において,glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF)が4血管閉塞/再灌流モデルラットにおける,海馬CA1領域の遅延性神経細胞死(アポトーシス様神経細胞死)に対し保護作用を示すことを明らかにした.そこでGDNFの海馬神経細胞死に対する保護作用の機構についてさらに検討した. 一過性脳虚血後の海馬において一過性のGDNF mRNAの発現増加が認められた.免疫組織化学の成績からGDNFは海馬錐体細胞においても発現が認められた.したがって,GDNFは脳虚血の病態において神経細胞の保護的役割を演じている可能性が示唆された.一方,ドパミンはニューロンに対し毒性を有すること,一過性脳虚血の際に海馬においてドパミンが過剰に遊離されることが知られている.そこで,GDNFの作用機構を知る目的で,カテコールアミン合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)の脳虚血時の動態を検討した.一過性脳虚血後3〜7日においてTH mRNAの発現が海馬において増加した.一方,ノルアドレナリン合成酵素であるドパミンβ水酸化酵素mRNAの発現に変化は認められなかった.このような結果は蛋白質レベルにおいても同様であった.興味深いことにGDNF1μgの海馬CA1領域への微量注入による前処理は,一過性脳虚血後の海馬におけるTH mRNAの発現およびTH様免疫陽性終末の増加を抑制した.一方,正常動物においては海馬内GDNF投与はTH mRNAの発現を増加させた.したがって,神経細胞死に対するGDNFの保護作用の少なくとも一部には,GDNFが脳虚血時のTHの過剰な発現を調節するという作用に基づく可能性が示唆された.
|