TRPは、Na^+も通すことができるカチオンチャネルである。Na^+の排出系遺伝子を破壊した大腸菌変異株にTRPを発現させると、外部のNa^+に対して感受性が増加した。この結果はTRPがNa^+を通すチャネル構造を保って大腸菌細胞膜に発現したこと、つまり、TRPの構造が細菌の膜系で検討できる可能性を示している。TRPのC末にHisタグを付けた遺伝子を構築して、この蛋白質が細菌細胞膜に発現することを観察した。TRPは、辛みの成分であるカプサイシンに対するリセプター(バニロイド受容体)VR1とアミノ酸配列に相同性が見えるので、構造が類似していると予想される。TRP/VR1の構造は、X線構造解析が行われたKcsA K^+チャネルのK^+透過孔と類似する構造を持っているShakerタイプのK^+チャネルと類似した6回膜貫通構造を持つと推定されているが、実験的証拠は無い。従って、TRP/VR1の構造決定は興味深いテーマである。近年、キナーゼ活性を持つ動物のカチオンチャネルTRP-PLIKを大腸菌に発現させ、精製し、その活性が測定された(Science)。 我々は、平成10年度に、植物のK^+チャネルKAT1が大腸菌で機能を持って発現することを発見し、KAT1の構造を細菌の系で検討し(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、平成11年度には、細菌のK^+輸送系に、動植物K^+チャネルのK^+透過孔と類似する構造を見いだし(Biophys.J.)、KtrB K^+取り込み系におけるその役割を、部位特異的変異導入により検討した(FEBS Lett.)。平成12年度は、高等植物のK^+トランスポーターHKT1の機能を、アフリカ爪蛙の卵母細胞、酵母、大腸菌という複数の系で検討し、大腸菌の実験系の重要性を確認した(Plant Physiol.)。これまで研究から、動物の膜蛋白が細菌の膜系で発現することまでは間違い無いと考えている。次に、TRPなど動物の膜蛋白が、細菌細胞膜で正しく構築されるか、より詳細に検討を行う必要がある。このためには、動物細胞を用いる必要がある。関連して、Lynキナーゼと特異的に相互作用するChkキナーゼを動物細胞で高発現させると核の変形が起きることを観察した(J.Cell Sci.)。
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