研究概要 |
本研究室では、核内受容体およびそのリガンドの前駆体を用いて、リガンドを前駆体から活性体へと変換する酵素を単離するための新規の酵母および哺乳類細胞での発現クローニング系を開発した。 このスクリーニング系では、細胞内に核内レセプターとその標的配列をもつレポータープラスミドおよび発現ライブラリーを導入し、リガンドの前駆体存在下での標的配列からの転写量を測定する。もし細胞内にリガンドの前駆体を活性体に変換する酵素の遺伝子が導入されれば、活性型リガンドが産生され、核内レセプターに結合することによって標的配列からの転写が起こる。これら転写が活性化した細胞よりプラスミドを回収することにより変換酵素のcDNAを取得する。本研究では、このスクリーニング系を用いてPPAR δについて活性型リガンドおよびその変換酵素遺伝子を単離、同定することを目指す。 その準備段階として平成10年度は以下の実験を行った。 1、 PPAR α,γ,δの転写活性化領域の解析を行った。多くの核内レセプターは、リガンドの結合するE/F領域にリガンド依存的な転写活性化能(AF-2)を持つ。一方、PPARがリガンド依存的な転写活性化能を発揮するためには、E/F領域と共にD領域が必要であった。したがって、PPARは他の核内レセプターとは異なった転写共役因子により活性が制御されている可能性が考えられる。 2、 PPAR α,γ,δと既知転写共役因子(SRC-1,TIF2,AIB1,p300,RIP140)とのリガンド依存的な相互作用を検討し、これらの因子がPPARとリガンド依存的に結合することを明らかにした。 3、 さまざまなリガンドに対するPPARの転写活性化能を測定し、PPAR α,γ,δのリガンド特異性が低いことを示した。これは、PPARのリガンド結合ポケットが他の核内レセプターよりも1つ余分なa-helixを持つことに起因すると考えられた。 4、 8S-リポキシゲナーゼ遺伝子を取得した。アラキドン酸存在下でこの遺伝子を培養細胞に発現させたところ、PPAR α,γ,δの転写活性化が認められた。 平成11年度は、上記結果を踏まえ、PPARの新規リガンドおよびその変換酵素の取得を試みる。
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