申請者は、がん細胞のミトコンドリアには多量のヘキソキナーゼが結合するが、正常な肝臓のミトコンドリアにはほとんど結合しないとの報告に基づき、本プロジェクトに着手した。本研究では、まずがん細胞に発現したポーリンの特性を明らかにする目的の研究を行った。得られた知見は以下の通り。 1.がん細胞に発現した1〜3型のポーリンの構造を解析したところ、すでに報告されている正常な組織に発現したポーリンのアミノ酸配列といくつかの差異を認めた。しかし、我々が正常組織のポーリンについて解析をやり直したところ、これらの差異は、がん細胞に特異的なものではなく、報告されている塩基配列の誤りであることが判明した。 2.これらの3種以外のポーリンの発現の可能性を、縮重プライマーを用いて解析した。その結果、第4のアイソフォームの発現の可能性は否定された。 これらの知見から、がん細胞に発現したポーリンは正常な組織に発現したポーリンと、質的には異ならないことが明らかになったので、次にがん細胞と正常な組織でのポーリンの発現量を比較した。その結果、 3.いずれのポーリンも、がん細胞に顕著に発現しているわけではなく、心臓とがん細胞で同レペルの転写が観察された。しかし、特記すべき事項として、いずれのアイソフォームの転写レベルも、肝臓で顕著に低いものであった。 この知見をあわせて考えると、肝臓のミトコンドリアに多くのヘキソキナーゼが結合しないのは、その量が少ないためであると考えられる。今後、ミトコンドリア膜上に実際に存在するポーリンの測定を行い、発現量の違いの生理的意義を明らかにしていく予定である。
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