研究概要 |
血管腔区画で発生する活性酸素に相対する血管内皮細胞フロントラインにおいて,ゾーンディフェンスラインを形成しているextracellular-superoxide dismutase(EC-SOD)に注目して研究を進めてきた.腎疾患の発症原因の1つは糸球体内皮細胞の傷害であることから,EC-SODの存在様式の変化は本症の発症に深く関わっているものと考えられる.(1)健常者のEC-SODレベルは,200ng/ml以下に分布するGroupIと400ng/ml以上の高値を示すgroupIIに分けられる.GroupIIでのEC-SOD遺伝子の塩基配列分析から,nt760の位置にG→Cの変異が確認され,この変異はEC-SODのヘパリン結合部位内のArg213→Glyへの置換を引き起こすことが確認された.GroupIIの出現頻度は,健常人の場合,6.5%であったのに対し,透析患者では13.8%と2倍の出現頻度を示した.また変異EC-SODのホモ接合体の血清中EC-SOD濃度は,ヘテロ接合体よりも高値であり,変異が血清濃度に重要な影響を及ぼしていることが明らかとなった.(2)非糖尿病性腎症患者の場合,透析歴10年以上では,変異EC-SODの出現率が若干低値であった.一方,糖尿病性腎症患者では,透析歴1年未満の患者では,変異EC-SODの出現率が26%であったが,透析歴10年以上の患者ではEC-SOD変異が認められなかった.この結果から,EC-SOD変異を有する患者の方が予後が不良で,特に糖尿病性腎症患者ではその影響が強く現れる可能性が示唆された.EC-SODは血管内皮の表面で活性酸素から血管を防御しているため,変異に伴うEC-SODの内皮結合性の低下は,活性酸素に対する生体防御機能の低下をもたらすと考えられる.(3)EC-SOD濃度と一酸化窒素(NO)との間には負の相関性が認められ,さらにEC-SODの遺伝子変異と内皮細胞型NO合成酵素の遺伝的多型の両者に影響を及ぼす遺伝的因子の存在が示唆された.(4)EC-SODの濃度や存在様式は腎疾患以外に循環器系疾患,糖尿病などの発症・進展にも関わっていることが判明した.
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