研究概要 |
申請者は,血管腔区画で発生する活性酵素に相対する血管内皮細胞フロントラインにおいて,ゾーンディフェンスラインを形成している活性酸素消去酵素extracellular-superoxide dismutase(EC-SOD)に注目して研究を進めてきた.腎におけるEC-SOD発現と存在様式の変化は腎疾患の発症に深く関わっているものと考えられる(1)健常人の尿中EC-SOD濃度は,尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase(NAG)との間に有意な相関性を示し,尿中EC-SODは,腎糸球体より漏出したものではなく,尿細管近傍の線維芽細胞から分泌されたものである可能性が示唆された.また,尿中EC-SODは,尿中cAMP,尿中リン濃度との間にも相関性を示した.(2)ヒト線維芽細胞培養系にcAMPアナログ(dbcAMP,8-BrcAMP,ATP)やcAMP濃度を亢進させる試薬(forskolin IBMX)を添加した場合,EC-SODの発現が有意に増加することが判明した.(3)腎尿細管のcAMP依存性の種々機能は副甲状腺ホルモンであるPTHによる調節を受けている.副甲状腺機能診断法であるEllsworth-Howard試験を行った結果,尿中EC-SODは,尿中cAMP,NAG,無機リンと同様に一過性に有意に上昇した.以上の結果より,EC-SODの発現がadenylate cyclase-cAMP系によって制御されている可能性が示唆された.(4)健常人の血清中EC-SODの加齢による変動について検討した.子供・若年群は,大人群に比べ優位に高値を示したが,大人群のみに限定した場合,加齢に伴って緩やかに上昇する傾向が認められた.他のSODアイソザイムにはこのような加齢による変動は認められず,EC-SODは,加齢に伴う抗酸化活性の変化を最も鋭敏に反映している可能性が示唆された.(5)血管系病態発症のリスクファクターの1つであるホモシステイン濃度とEC-SOD濃度との間に有意な相関性が認められた.この結果より,EC-SODの濃度や存在様式は腎疾患以外に循環器系疾患,糖尿病などの発症・進展にも関わっていることが判明した.
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