代表的な成人病である血栓症の予防・治療面から血小板凝集の細胞内情報伝達系の解析が進められてきたが、血小板活性化因子(PAF)のような微小リガンドが細胞膜上の受容体に特異的に結合し、その刺激に細胞が応答する情報伝達機構についてしの概要が捉えられてきた。本研究ではPAF刺激により惹起される形態変化や血小板膜上への細部接着因子(P-selectin)発現を持続・維持する為にはPAF-受容体複合体が形成され続ける必要があることを特異的アンタゴニストや分解酵素を用いて証明した(業績1)。この結果は受容体にリガントが結合し、複合体が形成されている情報が細胞の形態変化に関わるマイクロフィラメント、マイクロチューブなどの細胞骨格系蛋白質の3次構造を含めた分子変化につながる新規な細胞内情報伝達系の存在を強く示唆するのである。種々のホスファターゼ阻害剤、リン酸化酵素阻害剤等の細胞内情報伝達阻害物質を用いて、この新規な情報伝達系の解析を試み、PAF-受容体複合体からPAFの解離に伴い血小板活性化状態を元に戻す逆行性シグナル伝達系が細胞内で働いていることを初めて明らかにした。さらに凝集血小板の解離(脱凝集反応)に関わるシグナル伝達には細胞内外のカルシュウムの流入は関与していないことを我々が新規なカルシュウム拮抗剤として見いだしたヌクレオシド5'-アルキルホスフェートを用いて証明することが出来た(業績5)。
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